子供達を満載したオートリキシャーを抜かして行く。その瞬間バスの窓から写真を撮った。ピンクシティと呼ばれるジャイプールの街並みはお洒落なイメージを連想させるが、インドらしい風景はこれまで旅してきたデリーやベナレス、アグラとそう変わりはなかった。街に溢れる様々な露店や荷車、道路沿いの壁にもたれかかる人々。1週間近くインドという国を旅してきたが、窓の外に広がる景色にいつまでも興味が尽きない。

子供達を満載したオートリキシャー。僕らのバスが抜かして行く瞬間、必ず興味津々の眼差しを向けられる。

カブ系バイクも見かけた。様々な乗り物が混ざり合い、そして様々な人々の生活風景が垣間見える道路。
「あれを見てください」。ジャイプール市街を抜けた頃、ラムさんが進行方向右側を示しながら説明する。何やら湖のど真ん中に建物が孤島のように浮かんでいた。「水の宮殿」と呼ばれるものらしく、これもジャイプール観光の見所の1つらしい。進行方向に対して右側に見える「水の宮殿」は、左側の席に座る僕や山本さんからは右側の席に座る参加者越しに見えた。帰りは同じ道路を通れば左側の窓から直接見えるだろうから写真は帰りに撮ることにしよう。
やがてツアーバスはこれまでの道路ではあまりなかった峠道に入って行く。10分20分ほどカーブの多い道を上り、そこを抜け道を下りはじめるとアンバー城が見えてきた。次なる観光地であるそこは、バスから見る限りとても敷地が広そうだ。
(L)アンバー城に到着した。(R)象のタクシー乗り場へ。15:40頃アンバー城に到着。ツアーインフォメーションによるとここでは「象のタクシー」に乗ることができるらしい。しかし、近年人身事故が発生したため政府による人数制限が行われており、場合によっては象のタクシーに乗ることができないということもあるそうだ。ラムさんも車内で「乗れない場合がありますので…」と言っていたが、折角来たのだから是非乗ってみたい。テクテクと城内を進んでいくと、何やら小高い場所に案内された。建物2階ほどの高さがあるそこは「タクシー乗り場」らしい。象の高さを考えてのこの乗り場。どうやら象に乗ることができるようだ。
象のタクシーには2人1組みで乗る。すでに僕らの乗る象は手配されているようで、何頭かの象が待ち構えていた。かつては城主のみに乗ることが許されていた象のタクシーだが、現在は観光客がこれに乗って城のある丘まで向かうことができる。参加者達は順番に象に乗り、その度にラムさんが記念写真を撮っていた。象達は大きな耳をヒラヒラと動かしながら、乗降位置に近づいてくる。
僕と山本さんは4番目に象に乗り込んだ。こんな感じで座ってくれと象を操るインド人に言われ、象に装備された座席に座り落下防止のバーを固定してもらった。ラムさんにカメラを渡して記念写真を撮ってもらい、さらに後々写真を売りにくるであろうカメラマンにも2枚ほど写真を撮られた。のっしりと僕らを乗せた象は城の方に向かって歩き始めた。
のっしのっしと象は進んでいく。言うまでもなく僕や山本さんは象に乗るのは初めてだ。人身事故が発生したことがあると事前に聞いていたので少し怖かったが、着実に城に向けて歩みを進めて行く象さんは中々頼もしい。それでもやっぱり不安には変わりなく、象が急に威嚇を始めた時は暴れ出すんじゃないかとビビりまくりだった。
他の参加者が乗る象を抜いたり抜かれたりしながら進んでいく。Oさんカップルの乗る象には一回抜かれたが、その後また抜き返した。象に乗りながら他の参加者の写真を撮ったり撮られたり。マイペースに象さんは城のある丘まで上っていく。丘を上れば上るほど景色がよくなってきた。周辺の山々には立派な城壁が続いている。

次第に城の方へ近づいてきた。

象のタクシーに乗ったところを撮られた写真を途中で渡された。物売りには気をつけなくてはいけないが、写真は良い記念になるので買った。1枚100ルピー。4枚買って山本さんと2枚ずつ持って帰ることに。この内の1枚に写る山本さんの表情が本当に良い感じに撮れており、本人も「なんでこんなに良い顔してるの?」と不思議に思っていた。無愛想に写ることの多い山本さん。もちろんその写真は彼に渡した。
15分ほど象さんに揺られ辿り着いたのは広場のような場所。乗降場に着いたので象から降りようとすると、ここまで象を操ってきたインド人がチップをせがんできた。100ルピーほど渡し、無事に到着。他の参加者達も無事に到着できたようだ。

アンバー城の広場に到着。ここから観光開始だ。

ここまで運んでくれた象さん。ありがとう。

象さんを見送り城内の観光へ。「アンベール城」でネット検索するとWilipediaのページなんかが出てくるが、それによると元々あった砦をムガル帝国アクバル軍の司令官であったラージャー・マン・スィンが1592年に築城したものらしい。広場の階段を上ると、素晴らしい城内の建物が目に入った。
観光客の姿もよく見かける。階段を上ったところで眺めの良い場所があった。そこでわーい!とバンザイしながら記念写真を撮っていると、その辺にいたインド人に笑われた。

城内をさらに進んでいくと、幾何学な模様が美しい中庭を見渡せる場所に出た。そこからさらに奥に山が見え、その山の上にアンバー城とは別の城がそびえていた。後から調べてみると、アンバー城より前の11世紀につくられたジャイガール要塞という城らしい。
象のタクシーで上ってきた道や、周辺の山々、城壁、湖が一望できるスペースにやってきた。身を乗り出すと落ちてしまいそうな窓があり、「落ちないでね」とラムさんは言っていた。それでも、そこから景色を眺めてみると本当に素晴らしい。アンバー城を取り囲むように、山・平地関係なく城壁はつくられているようだった。

景色を一望。山にまで築かれた城壁が印象的な風景を生む。

30分ほど城内を観光し、出口へ向かう坂道を下りはじめる。物売り屋さんに猛烈に絡まれながら坂道を下っていく。崩れかけた城壁や廃墟のような建築物、ゴロロゴとした岩等、景色は相変わらず壮観だ。
猿がいた。尻尾が長く、とりあえず白い猿がいた。ラムさんが「怒っているから。写真も撮らないで。」とやたらと警戒していた。猿の方は特に興奮している様子ではなかったが。他にも鹿かヤギか牛か…そのような動物も見かけた。
結局出口に辿り着くまでずっと物売りのおじさん達に絡まれ続け、その中には姉弟であろう子供2人もずっと僕たちと一緒に坂道を下ってきた。出口のゲートを抜け、バスに乗り込み彼らから解放された。

猿がいた。怒っている様子には見えなかったが…

廃墟。興味深い。

鹿か山羊や牛か。そんな動物も歩いていた。

僕たちと一緒に坂道を下って来た姉弟。
アンバー城アンバー城の観光が終わった。逆光の中眺める城は幻想的ですらある。

城を出てバスの方へ。道路には牛が。象や猿よりも見かけてきた動物だ。
(L)興味深い車を見て…(R)行きに撮影できなかった水の宮殿を撮影。時刻は間もなく17時になろうとしていた。城内観光用のジープなのだろうか、興味深い車を横目にツアーバスに乗り込む。アンバー城を後にし、行きと同様峠道を越え「水の宮殿」横を通過。今回はきちんと写真を撮ることができた。バスはやがてインドサラサ(染織工芸)のお店へ到着した。
サラサのお店へ到着。
(L)「サラサができるまで」を実演で。(R)様々なパーツを組み合わせ模様をつくっていく。お店の人に作業場へ案内され、サラサの製品ができるまでの様子を実演してもらった。サラサの緻密な模様が形成されるまでにいくつものパーツが使用される。パーツを使い分けることによってカラーバリエーションも増やすことができるようだ。例によってサラサ製品の並ぶ店内へ案内された。これまでシルクのお店やサリーのお店なんかに無理矢理連れて行かれ、買ってくれ買ってくれと猛アピールを受けてきたが今回は少し違う。普通にお土産としてサラサ製品を買っていきたいという思いがある。

ラムさんに値切りの交渉に加わってもらい、ベッドカバーを選ぶ。女性の参加者もベッドカバーを物色していて、結構高めな真っ白で美しい模様のベッドカバーを値切り交渉していた。結局女性は購入しなかったのでなぜだか聞いてみると、「結構な値段だったから値切りまくったら交渉が決裂した」とのことだった。真っ白なベッドカバーをチョイスしていたのも理由があった。僕のように鮮やかな模様のベッドカバーだと、部屋が一気にアジアンテイストになってしまうから…とのことだった。
「彼らは添乗員になりたいそうなんです。」。確かに僕と山本さんは観光学を学んでいる。しかし添乗員になりたい等とは一言も言っていなかった。ラムさんはなぜかそのように思いこみ、サラサのお店の人にも「いつかこの2人がこのお店にいっぱいお客さん連れてくるから…」と話していた。そんなこともあって、僕と山本さんはお店の人に名刺を渡され、さらには「友情の証」としてサラサのハンカチを一枚もらってしまった。まぁいいか…。
僕は2500ルピーのベッドカバーと、もらったハンカチとは別にお土産用に何枚かハンカチを買った。サラサのお店の人と記念写真を撮り、バスの方へ戻る。お店を出ると、空は夕空の橙色を通り越し闇夜へと続く紫色に染まっていた。

サラサのお店を出発。この日の観光は全て終了した。

サラサのお店を出発して5分ほどのところに、グレードの高いホテルに到着した。僕らよりも高い旅行代金で参加している女性参加者2名が宿泊するホテルだ。僕らの泊るホテルはことごとくランクが低かったがそれでも徐々にクオリティは上がってきていたが、それと比例するかのように彼女たちのホテルは最高級になっていった。ラムさんがその2人をホテルの方に案内するとのことだったので、僕たちランクの低いホテルに泊まる参加者達も便乗してホテルを見学することに。逆に虚しくなるような気がするが。
高級ホテルだった。中庭にはライトアップされた噴水、有料で人形劇もやっているらしい。様々なリキュールが置かれているバーも併設、大理石っぽい床や壁…。初日のホテルを思い出してみる。壊れたエレベーター、汚れたコーヒーカップ…。悔しさと虚しさを晴らすかのように、「ここで泊ることができない」参加者達はそれぞれ思い思いの記念写真を撮っていた。
あたりはすっかり暗くなった。残った僕らのホテルへ向かうため、相変わらず賑やかな道路をバスは走る。バスの車内はエアコンが壊れているのか、かなりむさ苦しい。
バスは再びホテルに到着した。そこは僕らが泊るホテルではなく、Oさんカップルが泊るホテルだった。どうやら今日はOさん達も僕らとは異なるホテルに泊まるらしい。「おつかれっす~!」と颯爽とバスから降りて行くOさん。僕と山本さん、そして残りの女性参加者4名はエアコンの壊れたバスの車内に取り残された。
Oさん達がホテルに到着した直後、雨が降り始めた。雨脚は次第に強くなり、道路では至る所に水たまりができていた。道路を走っていた二輪を運転する人達は、ガソリンスタンドなんかで雨宿りをしている。エアコンの効かない車内はムァ~っとしていて、雨のおかげで湿度が上がりさらに環境が悪化。この後30分ほどでようやく僕らが宿泊するホテルに到着したが、中々ハードなバスの車内だった。

時刻は20時を回っていた。ホテルの人が傘を持って出迎えてくれ、さらに道路の水たまりを避けるために板も敷かれていた。その上を歩きホテルの中へ。中々良さそうなホテルだ。
到着後すぐさまチェックイン。ラムさんが手続きをしている間、僕らはロビーのソファに腰掛けて待つ。近くに置いてあった新聞に目をやると、今日目にした「水の宮殿」が記事になっていた。手続きを終えたラムさんが戻ってきて部屋の鍵を受け取る。女性はエレベーターを使って部屋へ向かったが、僕と山本さん、そしてラムさんは階段で部屋へと向かう。部屋は311号室だ。部屋に入るとなぜかラムさんも一緒に入ってきて添乗員レクチャーが始まった。
「日本人観光客にとってトイレットペーパーがきちんとあることや、お風呂ではお湯がでることが重要です。あと、インドでは停電が多いのでそれも注意して…」
添乗員レクチャーも終わり、ご飯を食べに1階のレストランへ。お腹ペコペコだ。
(L)ホテルに置かれていた新聞。「水の宮殿」の記事が掲載されていた。(R)ホテルの部屋。
この日の夕飯がこれまでで一番美味しかったかもしれない。チーズカレーに豆カレー、中華料理風の肉団子に焼き飯。注文してからビールが登場するまでに時間がかかったが、この日飲んだ「INDUS PRIDE」は最高だった。
食事中ラムさんがやってきたので連絡先をメモ帳に書いてもらう。「メールよりも電話の方が…」といって、ラムさんは電話番号も書いてくれた。2日目の夜を思い出す。デリーから乗った寝台列車の中、ラムさんと交わした会話…。
「結婚してからまたインドに来てください!絶対良いから!」
またこの国を旅してみたい。その時はまたこの人にお世話になるだろう。その時はこの電話番号にかけてみよう。その後ラムさんは、僕らの近くで食事をしていた女性参加者に絡みにいってしまった。
部屋に戻りシャワーを浴びる。山本さんと交代で浴び、今日の疲れを癒した。山本さんがシャワーを浴びている間、今日土産屋で購入したインドの地図を眺める。今回の旅の情景を思い出させる音楽を聞きながら、これまでの旅の思い出を振り返ってみた。
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